ノンフィクション

祖父倫 1

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 1992年盛夏、昼下がり

郭大義は中央の座長席に座って側近から受け取った書類に素早く目を通していた。
左右には郭の会社と日々しのぎを削っているパソコンソフト流通の面々がそれぞれ4人ずつ座っていた。
各社CEOは郭同様に書類に目を通し、その面持ちは深刻そのものであった。
時代は正にパソコン時代、ソフト流通が法人の体をなしてきて久しく、郭の会社が最大手に躍り出た、いわば流通戦国時代の到来だ。
その日は業界内に台頭してきたソフト協会の流通部会であった。

郭、「そもそも我々、流通がソフトメーカーから商品保証書をいただき、内容審査をしていることは不自然に思います」

続けて郭は言う「他のクリエイティブな業界でも、メーカー主体の団体があると思います。皆さんに主体性を持ってその辺をお願いしたく・・・」

しばらく郭は持論を捲し立てた後、その場に招聘していたソフトメーカー代表の佐藤と、美少女ゲームソフトの問屋としては、秋葉原を中心にテリトリーを急拡大してきたTSKの番頭格倉石に意見を求めてきた。
佐藤は、この数日前に二度にわたるメーカー懇談会で議長に選ばれたソフトメーカー代表である。
ゲームが好きなだけの佐藤は、「なんで俺がここにるんだ・・・」と自問自答し、それこそ味わったことのない緊張感の中にいた。
一方の倉石は、既に取引がある流通の代表者を前に、愛想を振りまく余裕があった。

佐藤、「勝手に「創れ」と言われても、協力はいただけるんでしょうか?どんな組織になるかは現在それほどイメージは湧いていませんが・・・(中略)例えば権限とかいただけるんでしょうか?」
ここで佐藤は二度の懇談会の中で自然に浮かび上がっていた業界の力学を出席者の面々に説いた。
佐藤「例えば、世の中に出してはいけないものと組織が判断した場合、皆さんのチャネルに発売禁止をお願いしたとき、即座に応じてくれますか?」
「また、この中で抜け駆けはあり得ませんか?」
発禁と回収のイメージを話した。
そして、昨年来業界の方向性に反している一部流通に対する牽制でもあった。
一年前の事件以来、規制を強くする方向で自社の安全策をとる流通会社の中にあって一部流通は、敢えて危ない売り方で他社を出し抜いていたからである。

佐藤、「クリエイティブなメーカー団体である以上、皆さんの口出しは無用と思います。作品性に関しての議論は御法度で、あくまで売るがための方策としての組織です」
高山、「それは良いけど、メーカー同士が徒党を組んで圧力団体にはならないでよ。まして流通会社を作るなどないよねぇ」
高山は郭に続き、大手に躍り出る寸前の中堅どころの流通代表で、問屋という規模を遙かに超え、ロジスティックも整備された会社のオーナーであった。
その日の出席流通には、高山が目を付けていた大手出版社とゲームメーカーが共同出資で設立したソフトスイングも参加していた。高山流の皮肉の混じった牽制であった。

郭「組織を支持するのは当然でしょう。メーカーが創った自主規制を我々が守らなければ、我々こそ危ない」
話がここに至るには、1年前の京都府における男子中学生の万引きがあった。
万引きそのものも問題だが、盗難に遭った商品そのものに大きな問題ありと府警は考えたのだ。
刑法175条にあたる猥褻図画を含んだ画像が入ったゲームが市中で何のためらいもなく販売されていたのであった。
業界内に衝撃が走ったこの事件は、後にPCゲームの販売における審査および区分け販売を促すこととなった。
郭の会社も事業部長級が警察に呼び出され、きついお達しを受けている。

府警担当官「次に問題を起こしたら、その郭とか言う社長に来てもらうことになるからね」事業部長は頭を下げるしかなかった。

郭は続ける「今でこそパソコンのカラーは8色ですが、将来CPUやメモリが飛躍的に進化しカラーもフルカラーの時代がきっとやってきます。そうしたらクリエイティブな皆さんの創造性は高まり、フルカラーの美しいCGをグリグリ動かしたり、3Dモデルのゲームなども出てくるかも知れません。それこそ真っ赤な血が噴き出すようなゲームや実写と見違えるほどのクオリティの女性が登場したり、エッチなシーンもたくさん出てくると思います」

今でこそ、当然のようなコンピュータのスペックを、この8ビットのDOS時代に郭は予見していたのである。
後にパソコンソフト流通から飛躍的な進化を遂げ、世界にその名を知らしめたIT企業、通信事業者に躍り出る彼の天才たる所以の一端を観たとも言える。


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